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栢木 進| SUSUMU KAYAKI

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一枚の肖像に、時代が重なる。

初めてこの作品を見たとき、一枚のコラージュでありながら、一枚の肖像では終わらない不思議な感覚を覚えた。

近づくたびに新しい表情が現れ、視線を動かすたびに印象が変わる。その美しさの奥は、作家が積み重ねてきた時間や経験だけでなく、過去から受け継がれてきた芸術や思想が静かに息づいている。

今回ご紹介するKAYAKI氏の作品は、ピカソやマルジェラから着想を得ながらも、それらを単なる引用にとどめることなく、自身の表現へと昇華した作品である。

本特集では、作品に込められた思想を、制作工程とKAYAKI氏自身の言葉から紐解いていく。

共鳴  ー Echo ー

時間の肖像 Portrait of the Flow#1

ART | July 31, 2026 14:00

SUBMISSION

SUBMISSION

本作は、一人の女性を固定された肖像としてではなく、複数の時代が重なり合う存在として捉えた作品である。

作品の素材となるメイクは、1950年代、1980年代、1990年代、2000年代、2020年代。それぞれ異なる時代の美意識をテーマに、一人のモデルへ施し撮影された。

ここで表現されているのは、単なる時代ごとのスタイルの違いではない。異なる時代に育まれた価値観や美意識が、一人の女性の中で交差し、受け継がれていく時間そのものである。

完成したビューティー作品は、一度すべて切り離される。そして、アナログコラージュという手法によって再構築され、一つの顔の中に複数の時間が共存する、新たな肖像へと生まれ変わる。

私たちが「一人の顔」だと認識しているものは、本当に一つの時代だけで形づくられているのだろうか。

本作は、美しさとは単一の価値観ではなく、時代ごとに育まれ、受け継がれてきた美意識の積層によって形づくられるものであることを静かに問いかけている。​​

Photographer : Sohei Yanaoka

Stylist : Michiko Koizumi

Hair : YAMA 

Make : Susumu Kayaki

Model : Lisa Siera

栢木 進| SUSUMU KAYAKI

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目が宿す、もう一つの表情。

完成した作品を前にすると、まず視線が惹きつけられるのは、その瞳である。

虹彩には幾重もの光が宿り、静かな輝きを放っている。その光は印刷によるものではない。切り重ねられた紙の層が光を受けることで繊細な陰影を生み出し、素材そのものが持つ表情を映し出している。

さらに、パーツ同士のわずかな高低差が瞳に立体的な奥行きを与え、平面作品でありながら視線は自然と作品の内側へ導かれていく。

目は、感情を映すだけの存在ではない。光を受け、影をまとい、時間を重ねることで、一枚の作品に生命の気配を宿している。

私たちは、目の輝きに美しさを感じているのだろうか。それとも、光と影が織りなす奥行きの中に、生命の気配を見出しているのだろうか。

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唇が語る、静かな存在感。

目が作品に生命を宿すとすれば、その存在を静かに支えているのが唇である。

幾重にも切り重ねられたパーツは、唇に繊細な厚みと陰影を与え、柔らかな質感を生み出している。光を受けた艶やかな表面は、紙という素材であることを忘れさせるほどの存在感を放つ。

 

わずかにずれた輪郭や断面は、完成された美しさを崩すためではない。異なる時間の断片が重なり合った痕跡として、一つの顔に静かな深みを与えている。

唇は、言葉を発するためだけの器官ではない。感情や時間、記憶までも内包し、その人らしさを映し出す象徴である。

 

私たちは、唇の形に美しさを感じているのだろうか。それとも、その輪郭に刻まれた時間の重なりに、一人の存在を感じ取っているのだろうか。

奥行きがつくる、もう一つの空間。

この作品に立体感を与えているのは、紙を重ねた厚みだけではない。

切り重ねられたパーツは、一枚一枚が異なる距離を持ちながら配置され、光を受けることで繊細な陰影を生み出している。

 

その陰影は輪郭を際立たせるだけでなく、作品の中に奥行きという空間をつくり出している。視線は手前のパーツから顔へ、そしてさらにその奥へと導かれる。平面作品でありながら、鑑賞者は一枚の紙ではなく、幾層にも重なる空間を見つめている感覚を覚える。

陰影は、形を見せるためだけに存在するものではない。

光と影が重なり合うことで、作品は静かな奥行きを獲得し、一枚の肖像に新たな存在感

を与えている。

 

この奥行きは、一枚の写真から生まれたものではない。

栢木 進| SUSUMU KAYAKI

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美しさは、解体から始まる。

 

一枚のビューティー作品は、完成と同時に終わるのではない。

 

KAYAKI氏は、その完成した作品を一度すべて切り抜き、ばらばらに解体する。

目、口、髪、手、花。それぞれのパーツは独立した存在となり、再び一つの顔へと組み上げられる瞬間を待つ。

 

完成した作品の裏側には、数え切れないほどの選択と修正が積み重なっている。

解体とは終わりではなく、新たな表現を始めるための最初の工程なのである。

美しい顔は、偶然生まれるものではない。

完成した作品からは想像もつかないほど、この作品には膨大な試行錯誤が積み重ねられている。

制作は、一枚の写真を切り抜くことから始まる。

すべてのパーツを一度切り離し、それらを一つひとつ配置し直しながら、「美しい顔」を組み上げていくのである。

KAYAKI氏は、「一つでもパーツを置く場所を間違えれば、美しい顔にはならない」と語る。ほんの数ミリの違いが、視線の流れを変え、表情を変え、作品全体の印象を左右するのだ。

そのため、一つひとつのパーツは何度も位置を調整し、最適な場所を探り続ける。

 

完成した作品は、一瞬のひらめきによって生まれたものではない。緻密な設計と、終わりのない試行錯誤。その積み重ねが、一枚の作品に静かな説得力を与えている。

 

言葉だけでは伝わらない制作の時間がある。その過程を、ぜひ動画でご覧いただきたい。

積み重ねられた時間は、一つの作品となる。

数え切れないほどの選択と修正を経て組み上げられた肖像は、最後に額装され、一つの作品として静かに佇む。

 

そこにあるのは紙ではない。幾重もの時間が積み重なり、生まれた一つの存在である。

Artist's Voice KAYAKI

創作の原点には、いつの時代も受け継がれてきた作品や思想がある。

本作の着想源について、KAYAKI氏自身の言葉で語っていただいた。

約25年にわたりメイクアップアーティストとして活動してきた私は、数年前から、自らのメイク作品を素材としたアナログコラージュの制作に取り組んでいます。

メイクアップの仕事は、モデルやフォトグラファー、レタッチャーとともにつくり上げる「チームの表現」です。

 

そのプロセスに大きな喜びを感じる一方で、自分だけの手で完結する表現を模索してきました。完成された作品をあえて切り刻み、貼り直す。そのある種の暴力性を伴う再構築によって、どこにも存在しない新たな女性像が立ち上がります。

 

記憶するために壊し、忘れるために再構築する。ひとつひとつのピースには、私が積み重ねてきた時間や思考、技術が交錯し、一つの女性像として結実していきます。また、「すでにあるものから新たなアイデアを生み出す」という姿勢そのものが、私にとっては消費社会に対する静かなメッセージであり、コンセプチュアルなアップサイクルの実践でもあります。

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この作品を制作する上で、大きな影響を受けたのは、パブロ・ピカソが《ドラ・マール》で試みたキュビズムの視点と、マルタン・マルジェラが提示した「解体と再構築」という思想です。

 

ピカソは、一人の人物を単一の視点ではなく、複数の視点や時間が同時に存在するものとして描きました。私には、それは「顔」を描いたというより、「見る」という行為そのものを描いた作品のように感じられます。

一方で、マルジェラは衣服を解体し、その構造をあえて露わにすることで、完成品の裏側にある時間や制作の痕跡を表現しました。​

私にとっても、解体とは壊すことではなく、新たな価値を生み出すための創造のプロセスです。​

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私は、その二つの思想をメイクアップという表現へ置き換えたいと考えました。

完成したメイク作品を一度解体し、アナログコラージュによって再構築することで、一人の女性の中に存在する複数の時間、複数の美意識、そして複数の視点を、一枚の肖像として表現しています。

ピカソが「視点」を解体し、マルジェラが「衣服」を解体したように、私は「完成した美」を解体します。

私は、美しさは完成された瞬間に存在するものではなく、壊され、組み替えられ、更新され続ける過程の中に宿ると考えています。

この作品は、一人の女性の肖像であると同時に、世代を超えて受け継がれる時間と記憶の肖像でもあります。

見る人それぞれの記憶や経験が、この作品の中で新たな物語として再構築されることを願っています。

栢木 進|SUSUMU KAYAKI

共鳴  ー Echo ー

時間の肖像 Portrait of the Flow#1

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