
SEB MICHEL

半透明の世界に、光と時間を取り込む
空と光をまといながら、静かに立ち上がる幾何学的な構造物。
透明なアクリルガラスと黒いフレームによって構成されたその姿は、建築のようでもあり、彫刻のようでもある。
けれど、見る者の視線を自然と上へ向かわせるその姿には、古くから人々が祈りや畏敬の対象として見上げてきた「トーテム」の記憶が重なる。
アイリス・ヴァン・ヘルペンの彫刻的な構造と、ネイティブアメリカンのトーテムから着想を得て生まれた「半透明のトーテム」。
本特集では、作品の形態や素材、そこに差し込む光、移ろう時間、そしてローアングルという視点から、「半透明のトーテム」が生まれた理由を紐解いていく。
半透明のトーテム
ART | September 26, 2026 14:00
SUBMISSION
SUBMISSION

空を映す、半透明の構造
黒いフレームと透明な面によって構成された、極めてミニマルなフォルム
そこには、装飾らしい装飾はほとんど存在しない。
それでも、この作品が静かな存在感を放つのは、透明な素材の向こう側に空があり、光があり、時間があるからである。
青い空、夕暮れの光、雲の形。同じ形をした構造体であっても、そこに映り込む景色は一度として同じではない。作品は固定されている。しかし、その表情は刻々と変化していく。「半透明」という素材が、作品と外界との境界を曖昧にしているのである。
SEB MICHEL
INSPIRATION
作者の二つの記憶から生まれた、現代のトーテム。

Iris van Herpen
作者が本作品製作にあたってインスパイアされたもの。一つ目は、アイリス・ヴァ ン・ヘルペンの作品である。この作品から着想を得たのは、幾何学的で建築的な構造だ。衣服という領域を超え、身体と建築、彫刻の境界を行き来するようなその造形は、構造そのものが持つ美しさを強く意識させる。

Totem Revival
もう一つの着想源となったのが、Raymond Parkerによる「Totem Revival」。垂直に積み上げられた構造と、下から見上げる視点。
そこに感じられる象徴性や精神性が、今回の作品へとつながっていく。
構造は、いつしか象徴になる。
アイリス・ヴァン・ヘルペンの作品から受け取った「構造」。そして、トーテムから感じ取った「象徴性」。二つの異なるイメージが重なったとき、彼の中に生まれたのが、現代的なトーテムという発想だった。
本作の形態は、何か具体的なものを模倣したものではない。
垂直に伸びる構造。幾何学的なフレーム。積み重なる高低差。そして、その間に残された大きな余白。
それらが組み合わさることで、彫刻でありながら建築的でもある、独自の存在感をつくり出している。

透明なものは、光を見せる。
アクリルガラスは、それ自体を強く主張しない。光を通し、反射し、周囲の景色を取り込みながら、そこに存在する。だからこそ、作品の輪郭は光によって初めて浮かび上がる。
黒いフレームが形を定める一方で、透明な面は空や雲を受け入れ、作品の内側に外の世界を取り込んでいく。
見る者が目にしているのは、構造物そのものだけではない。その瞬間にそこにあった光景そのものなのである。
SEB MICHEL



光は、作品の外側にあるのではない
本作の撮影に合成は用いられていない。
それぞれの作品は、異なる時間帯、異なる日に撮影され、その瞬間の空と光が実際にアクリルガラスへ映り込んでいる。朝とも、昼とも、夕方とも異なる光。雲の形も、空の色も、太陽の位置も同じではない。だから、同じ構造を持つ作品であっても、写真の中ではそれぞれ異なる時間をまとっている。
作品を撮影することは、形を記録することだけではない。その作品が、その瞬間に存在していた時間まで写し取ることなのだ。

一度きりの光景を、合成しない。
「Totems」の作品は、すべて一発撮りで制作された。
空を後から合成するのではなく、実際の作品に映り込んだ光景を、そのまま撮影する。そこには、画像をつくり込むことよりも、その場に存在する光景をありのままに捉えることを大切にする作者の姿勢がある。透明な素材だからこそ、空は「背景」ではなく、作品そのものの一部になる。撮影された一枚の中には、構造物だけではなく、その日に、その時間に、その場所に存在した光が残されている。

見上げるということ。
本作におけるローアングルは、単なる撮影技法ではない。
それは、鑑賞者自身を「見上げる側」に置くための視点である。垂直に伸びる構造体を下から見上げることで、その高さは強調され、作品は人間のスケールを超えた存在として立ち上がる。それは、トーテムを見上げる視線とも重なる。私たちは、日常の中で自分と同じ高さにあるものを見ることには慣れている。
しかし、自分より遥かに大きなものを見上げるとき、そこには自然と距離が生まれ、同時に畏敬の感覚が生まれる。「半透明のトーテム」において、ローアングルは作品を見るための視点ではなく、作品との関係をつくるための視点なのである。
SEB MICHEL

作品になる前の、光。
完成した作品写真だけを見ると、そこに映る光景もまた、作品そのものの一部に見える。しかし、その光景は撮影の瞬間まで確定していなかった。
自然光が差し込む場所を探し、アクリルガラスに光が入り、影が生まれる位置を見ながら構図を決める。
作品と光。
光と空間。
そしてカメラ。
その関係を探りながら、一枚の写真がつくられていく。




光が形を与える。
透明な素材は、それだけでは輪郭を持ちにくい。しかし光が当たると、そこに反射が生まれ、影が生まれ、突然その存在が立ち上がる。
手に持ったアクリル片。床に落ちる影。壁に伸びる光。
完成した「Totems」の造形もまた、こうした小さな光の現象を積み重ねることで見えてくる。作品の形をつくるのは構造だけではない。光によって初めて現れる形もまた、この作品を構成している。
01
02
LIGTH
夕暮れの光
黄昏の光
03
TWILIGTH



TIME
SUNSET
同じ形は、
二度と同じ光をまとわない。
DAYLIGHT
澄んだ空の光

DETAIL
空が映り込む透明な面

DETAIL
夕暮れの光がつくる表情

DETAIL
移ろう空の色
重ねて述べることになるが、本作の撮影に合成は用いられていない。
それぞれの作品は、異なる時間帯、異なる日に撮影され、その瞬間の空と光が実際にアクリルガラスへ映り込んでいる。
時間が変われば、空の色も、光の表情も変わる。
雲の形も、太陽の位置も同じではない。
従って、同じ構造を持つ作品であっても、写真の中ではそれぞれ異なる時間をまとっている。
作品を撮影することは、形を記録することだけではない。
その作品が、その瞬間に存在していた時間まで写し取ることなのだ。
SEB MICHEL
SEB MICHEL
Director's Statement
SEB MICHEL (スイス)
創作の原点には、いつの時代も受け継がれてきた作品や思想がある。
本作の着想源について、ご自身の言葉で語っていただいた。
「TRANSLUCENT TOTEMS(半透明のトーテム)」は、ファッションデザイナー、イリス・ヴァン・ヘルペンの彫刻的な作品から着想を得たものです。
彼女の作品を特徴づける幾何学的かつ建築的な構造は、私に「モニュメンタリティ(記念碑性)」や「高揚感」、そして「人間的なスケール」と「純粋な美的機能を超越した形態」との関係性について深く考えるきっかけを与えてくれました。
それらの構造体を眺めていると、古来より伝わるネイティブ・アメリカンのトーテムポールの面影が重なって見えました。
垂直にそびえ立つその存在感や象徴的な力、そして伝統的に下から見上げることで体験されるそのあり方は、私たちを超越した偉大な存在に対する畏敬の念や謙虚さを自然と呼び起こすものでした。
こうしたインスピレーションを基に、私は現代的な解釈を構想しました。それが、空を構図の一部として取り込む「半透明のトーテム」です。
その透明性は物質を光へと溶け込ませ、彫刻、建築、そして無限の広がりとの対話を生み出します。
ローアングルからの力強い視点は、その記念碑的な存在感を際立たせると同時に、象徴的かつ精神的な壮大さに対する、私たち人間の視点を強調しています。
これら3つの作品は、すべて自然光のみを用い、それぞれ異なる時間帯に撮影されました。
刻々と変化する光と空は時間の経過を想起させ、宇宙が絶えず動いていることを私たちに思い出させます。
それゆえ、光は構図における不可欠な要素となっているのです。
私の他の芸術活動と同様に、ここでも意図的にミニマリスト的なアプローチをとりました。
すべての画像は本質的な要素だけを残すように削ぎ落とされ、視覚的なノイズが排除されています。
そうすることで、形態、光、そして余白(ネガティブ・スペース)が互いに豊かに響き合うのです。
その結果生まれたのは、静謐で思索的な作品群です。
それらは見る者を誘い、建築・彫刻・精神性の狭間に浮かぶ時代を超越した形態として、この現代のトーテムを体験させてくれることでしょう。
Photographer / Director/ Artist
SEB MICHEL
半透明のトーテム
Translucent Totems
Category / Art
Inspiration / Iris van Herpen
Raymond Parker / Totem Revival
